週末、
酒屋はやしさん主催の
日本酒会に参加。今回は、秋鹿酒造の奥裕明常務を招いて
「秋鹿」の活性にごり酒「霙もよう」を垂直試飲で飲み比べよう!という、何ともマニアックなテーマ(^^ゝ ラインナップは下記の通り。寝かせたにごりの飲み比べだけに終わらず、
全量純米蔵ファンドの紹介があったり、秋鹿が鹿肉や猪肉に合う謎が解明したり・・・と、密度の高い3時間でした。場所は、八田の「
京加茂」で。
日本酒
*秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 9号酵母 山田錦 14BY
*秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 9号酵母 山田錦 15BY
*秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 9号酵母 山田錦 20BY
*秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 山廃 雄町 20BY
*秋鹿 純米吟醸 生原酒特別仕込 全量純米蔵ファンド 阿波山田錦 6号酵母
この日は、まず最初に、秋鹿酒造の奥常務から、蔵の説明がありました。
秋鹿酒造
秋鹿酒造は、奥常務含め総勢5人の蔵人で、年間10万本(1000石)の純米酒だけを生産する、全量純米の酒蔵です。蔵があるのは、兵庫と京都に接する大阪・能勢。奥常務の言葉を借りると「冬はチベットのように寒く、夏は軽井沢のように涼しい」土地で、この冬の冷え込みが「酒造り」に、夏の涼しさが「酒米作り」に適した気候。蔵では、米造りから酒造りまでの一貫造りに取り組んでいて、全量自前の米を使うのが目標。現在、自社田は10haにまで増えたそうです。(このうち3haは無農薬栽培だそうです)
全量純米蔵ファンド
会の幕開けとなる乾杯となったお酒は、「全量純米蔵ファンド」のお酒でした。奥常務の説明によると、
全量純米蔵ファンドは、全量純米を目指す小さな蔵を応援しようと、神亀酒造を筆頭に全国20の蔵元で組織する「全量純米蔵を目指す会」が募集する、「純米酒のファンド」。「全量純米蔵を目指す会」が、一般消費者からファンド形式で応援資金を募め、その資金で購入した米で、各蔵が、「決められた条件」で「純米酒」を造り、出資者にファンド期間中の特典として、その純米酒を届ける、というもの。ファンドそのものの利回り云々より、「投資」という形で、小さな酒蔵を応援できる仕組みを立ち上げた点が、興味深い。出資者だけが飲める「純米酒」という特典も、日本酒好きの心をくすぐる。
●全量純米蔵ファンドの酒
冷酒:秋鹿にしては、香り華やか。
燗酒:燗をすることで、旨味が花開き、
キレも出て、味に落ち着きが。
真骨頂は燗冷まし。秋鹿らしい味。
小鉢
エビ、アスパラガス、ふき、鳥貝の炊合せ。酢を効かせた鰹出汁の餡、春野菜の仄かな苦味が、お酒と良く合います。
ここからが、霙もようの飲み比べ。霙もようは、新酒のしぼりたての生原酒をガスを抜かずに瓶詰めした活性にごり酒です。この春リリースされたばかりのものから、冷や燗で飲み進めます。
●秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 9号酵母 山田錦 20BY
冷酒:にごりらしい発泡感。冷やでも秋鹿らしい酸の旨味が充分。
燗酒:冷でもしっかり旨味があった分、燗で大化けはナシ。
八寸・・いたや貝、ゴマフグの白子焼き、空豆、サーモンと新小芋の重ね、新生姜が盛り合わせに。小芋を蒸して越して甘酢で合えたものとサーモンを巻き物にしたのは、お節や花見の時によく作るのですが、これをシンプルに重ねて、柏の葉で包んで香りを足す・・・というのは、ヒントになりました。
●秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 山廃 雄町 20BY
冷酒:ヨーグルトのような香りと、舌に弾ける発泡感が新鮮。
味に複雑味があり、底辺に厚みがあるどっしりとした旨味があります。
燗酒:味に締りと、キレが出てきます。
最初から意識していなかったら、雄町と、わかりませんでした。山田錦と雄町、盃を並べて呑み比べたからこそ、味の違いがわかった感じ。両者の違いを挙げてみると
山田錦:飲み心地がふわっとしていて、丸みを帯びたした広がり味わいの広がりが。
雄 町 :どっしりとした重みがあり、旨味の方向性が、円錐形というか、鋭角的。
刺身・・沖縄産の大トロ、三重の天然鯛、九州産タチウオの焼き〆の盛り合せ。美味しかったのは、鯛。昆布でちょっと〆ているのかな、旨味の奥行きを感じます。大トロとの相性はイマイチ。合わせたことによる収穫は、秋鹿には脂が合うと思っていたけれど、魚系の脂でなくて、肉系の脂が合うこと、それから、鮪ならトロよりも赤身の血合いみたいな方が合うということが、確認できたことかしらん(^^ゝ
岩牡蠣・・サルサソースという名の、やたらと辛さを足したケチャップがのってました(汗) 舌をピリピリと刺激するこの辛さには閉口。舌が麻痺してしまいました。この際、牡蠣の味がわからなくてもいいけど、酒の味までわからなくなってしまうの困りもの。どういう意図でこういうものを出したのか甚だ疑問。思わず「水下さい!!」と水をもらって小休止。
●秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 9号酵母 山田錦 15BY・・・
10℃で保存
冷酒:卵の黄身系の酸の香りがします。甘くて濃厚なヨーグルトのような味わい。
燗酒:どろどろっとして、甘さが、ガツンとくる。
香ばしさはあるけど、カラメルの甘さではなく、ビスケットのイメージ。
フロマージュブランのデザートのようでもある。
小鍋・・ハモとジュンサイと玉葱の小鍋仕立て。
●秋鹿 純米吟醸 生酒 霙もよう 9号酵母 山田錦 14BY・・・
5℃で保存
冷酒:独特のひね香の、後から黒麹を思わせる香ばしい香りが追いかけてくる感じ。
味わいに複雑さを増し、香りも味わいもどっしり系。
燗酒:黒麹っぽい香りは残るけど、仄かに残っていた嫌な匂いや雑味が飛んで、
このお酒本来の成分だけが凝縮して出てきた感じ。
キレと透明感が増した味わい。
下り坂にかかるか、からないか、のギリギリの、微妙な味わいが。
余韻がビターのチョコレート。カカオ分の高い上質のチョコレートと合わせたい。
揚げナスの餡かけ・・甘さと香ばしさを合わせたのかな。
お食事・・ラッキョウとエビの炊き込みご飯、蜆の味噌汁。
デザート・・イチジクとさくらんぼに、シェリー風味の冷たいジュレを添えて。
垂直試飲
同じ作り手の米違い、作り違いを飲み比べたことはあるのですが、同じ条件で作ったものの、熟成違いを飲み比べたのは、今回が初めて。同じ条件で造ったものでも、時間を経ると、味はガラッと変わるものですね。寝かせることによる味わいの変化も、決して綺麗なグラフのような曲線を描く訳ではなく、保存状態、個体差で、異なってくるのも面白い。
料理との相性
霙もようは、そのまま飲むにはいいけれど、合わせる料理が難しい、という
印象があったのですが、プロの手にかかっても、ドンピシャの相性を探るのは、難しいようでした。春の食材ならではの、ほんのりとした甘み、苦味、柔らかな酸味とは、良い感じではありましたが。
秋鹿と、猪、そして鹿
今回、一番印象に残ったのが、奥常務との会話。猪を引き合いに出して、「秋鹿と肉、それも四足で、脂や血の味のする部位と特に相性がいいと思うのですが・・・」と、この半年ぐらいの間、気になっていたことを、お酒の作り手としてどう思われるのか、思い切って伺ってみました。すると、「肉とは合いますね」とした上で、蔵の周囲には、猪がたくさんいて、地元では猪料理も食べるようなお土地柄であることを教えて下さいました。さらには、地元を車を運転していると、鹿にも良く遭遇するそうで(^^ゝ 鹿の刺身、それも凍らせて食べやすくしたルイベでなくて、 生のものに、塩と胡麻油をつけたもの、これと一緒に秋鹿を飲むのがお好きだと、にこやかな笑顔で答えて下さいました。
・・・いやいや、こんな凄い答えが返ってくるとは思いませんでした。蔵の周囲には猪や鹿が生息していて、猪や鹿を食べる食文化があること、そういう土壌で育った米と、その土地の水で醸した酒が、猪や鹿に合わないわけがなく、しかも蔵人の方が、それをよくわかっていらっしゃることに感銘しました。モノゴトには、訳があるんですね(一般的に鹿とか猪と聞いたらひるむ人が多いから、蔵としては、あえてアピールはしないんでしょうけど) お話を伺っていたら、蔵を訪ねてみたくなりました。蔵の中を見学できなくとも、蔵のある土地、周りの風景、匂いを感じたら、普段呑んでいる同じお酒も、もっと深く味わえるんじゃないかしら・・・そんな気がいたしました。そして、「鹿を肴に秋鹿を呑む」 いつか、そんな夢のようなことも、してみたい・・・(^^ゝ 晩秋に向けての楽しみが、またひとつ増えました(^^)