都電荒川線散歩のつづきです。
■飛鳥山
一般道路に都電の軌道があるのは、飛鳥山から王子へ向う飛鳥坂だけになりました。
歩道橋に駆け上り、パチリ。飛鳥山付近の併用軌道で都電がすれ違うところを撮ることができました。
続いて、王子方面へ向う坂道をパチリ。道路右手の木々がこんもりとしているのが、桜の名所で知られる飛鳥山公園です。
●飛鳥山公園
飛鳥山は、8代将軍徳川吉宗が、鷹狩場だった丘陵地に桜を植え、庶民に開放して以来の桜の名所。公園内には、その由来を刻んだ石碑が建っていますが、その内容の難解さに、こんな川柳も生まれました。
飛鳥山何と読んだか拝むなり / この花を折るなどろうと石碑みる江戸時代、飛鳥山での花見は、当時禁止されていた「酒宴」「仮装」「余興」などが許された為、大いに賑わったそうです。様々な趣向を凝らす江戸っ子たちの様子は、「花見の仇討ち」などの落語噺にもなっています。
司馬遼太郎の『坂の上の雲』では、飛鳥山という地名に親しみがない松山出身の主人公・秋山好古が、陸軍士官学校の入学試験の際、 「飛鳥山に遊ぶ」というお題で作文を書くことになり、思案する姿が描かれています。
飛鳥山とは、上野、隅田川堤とならんで東京における桜の三大名所なのである。・・・東京の者なら子供でもその地名は知っているだろう。が、好古が知るわけがない。(こりや、山の名ではあるまい。飛鳥(ひちょう)、山ニ遊ブ、とよむべきではないか)そうだと思い、そう思うと急に勢いが出てきて書き始めた。「余ガ故国伊予ニハ名湯アリ、道後ノ湯ト名ク。湯ノ里ニハ山アリ、山容ナダラカニシテ神韻ヲ帯ブ。古ノ河野氏ノ城趾ナリ」というところから書きはじめ、その山に鳥が大よろこびでいるとう描写をした。 (「坂の上の雲」より) 公園内には古い都電も鎮座。
■王子駅前
●扇屋
飛鳥山が花見の名所となり、王子稲荷信仰が盛んになると、飛鳥山から王子稲荷の門前までの参道には、料理屋や茶店が多く立ち並びました。
江戸時代の料理番付に登場し、「料理屋の折り詰めは扇屋より始まれり」と謳われた「
扇屋」は、その代表格。落語噺の「王子の狐」で、人間の男が娘に化けた狐を騙して、食事をしたのが、この「扇屋」。
料亭はなくなりましたが、狐を置き去りにしてまんまと無銭飲食を果たした男が手土産にした名物の「卵焼き」を売る二間ほどの売店が、店の跡地に今も暖簾を掲げています。
● 王子稲荷神社
落語噺の「王子の狐」で、人間の男に騙されて「扇屋」に置き去りにされ、店の者に袋叩きに遭った狐が子狐と暮らしていたのが、王子稲荷神社です。「扇屋」の主人が、お稲荷様のお使いの狐に対する皆の仕打ちを叱り、お参りに行ったのが、この神社です。
関東総社と呼ばれる格式あるお稲荷さんとあって、朱塗りの権現造りの本殿は、立派な佇まい。大晦日の晩になると、東国一円の稲荷神社から、使いのキツネが装束を正して参拝するという言い伝えもあるそうです。境内のここかしこには、キリっとした顔立ちの狐の石像が建っていました。