5日目
旅の最終日。太宰の『津軽』のハイライトでもある小泊へ向かいます。
太宰は小泊のタケに会うため、朝一番の津軽鉄道の列車に乗ります。この日もご多聞に洩れず二日酔い。車窓からの風景を眺めながら「世の中に、酒というものさえなかったら、私は或いは聖人にでもなれたのではなかろうか、と馬鹿らしい事を大真面目で考え」る太宰なのでした。
◆芦野公園駅
太宰が「踏切番の小屋くらいの小さい駅」と書いた芦野公園駅の旧駅舎。
駅に着いた時、金木の町長が上野で芦野公園までの切符を求めたところ、そんな駅は無いと言われ、切符を手に入れるまで30分かかったという昔話を思い出します。
◆芦野公園
芦野公園では、小説『津軽』 太宰の足跡 写真展』が開催中。文学碑へと続く木々の合間に『津軽』の印象的なエピソードを再現した写真をストーリーに添って展示しています。
金木の実家を訪ねた際、理解しあえないでいる兄・文治らと出かけた「鹿の子川溜池」の写真もありました。太宰は、出来たばかりの溜池を誇らしげに思い、ほとりに建つ石碑に兄の名前を確認しています。
兄とこうして、一緒に外に歩くのも何年振りであろうか。・・・もう、これっきりで、ふたたび兄と一緒に外を歩く機会は、無いのかも知れないとも思った。
「今別の鯛」にちなみ、鯛の魚拓と、皿に愚かしく盛った5切れの「やきざかな」の写真も。
今回の旅に備えて『津軽』を読み込んでいたこと、数日前に訪れたばかりの場所の写真が多かったこともあり、旅の途中でありながら、旅を反芻。
◆太宰治文学碑
そして公園の奥には、金色の不死鳥が輝く、太宰治文学碑が建っています。
撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり
碑文は、太宰が好きだったフランスの詩人ポール・ヴェルレェヌの詩の一節で、処女作品集『晩年』の巻頭作品「葉」のエピグラフに用いています。『津軽』では、今別のMさんの書斎でヴェルレーヌの全集を見つけた時の嬉しさを描いていましたっけ(^^)
◆太宰治像
太宰の書で太宰治と刻んだ大きな岩の上に、彫刻家・中村晋也による太宰治の銅像が建っています。太宰治生誕百年を記念して、2009年に建てられたそうです。まだぴかぴか。
芦ノ湖を背に建つ太宰の像が、なんとなく恥ずかしそうに、困った様子で立っているように見えるのは、私だけかしら。
青々とした芦ノ湖。
『津軽』での太宰は、車窓から芦ノ湖を見た際に、兄がこの池に遊覧ボートを1艘寄贈したことを思い出します。金木でのエピソードには、兄文治の存在が見え隠れし、太宰にとっての兄という存在の大きさを感じます。